【小説感想】人間失格 著者:太宰治

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今回は文豪である太宰治の名作「人間失格」の感想を書きたいと思います。

人間を理解できない人間の悲惨な人生

この作品は人間という物を極度に恐れる主人公が、人間社会の中で自己否定と苦悩を繰り返しながら27歳までの歳月を生きる姿を描いた作品で、内容は彼が記した手記の内容を読んでいくという設定で進んでいきます。

最初私は人間失格というインパクトのある題名から、主人公の自堕落な生活や、酷い自己嫌悪のようなものばかりが描かれているのでは無いかと思っていたのですが、内容はそんな単純な物ではなく、この主人公は表向きはあらゆる人達に好かれ、頭が良く、非常に女性にモテる人物として認識されており、所謂完璧超人的な部分があるのですが、勉学が出来る点以外の人当たりの良さなどは全て主人公が演じている仮の姿で、実際には他人を恐れ、物語の後半になるまでは、一人では店にも入れない程の人間嫌いという、中々癖のある人物として描かれています。

主人公はそんな演技を続ける自分の事を「道化」と呼び、日々自己嫌悪に陥るのですが、もし自分の素面を他人に見せれば彼らは即座に自分に危害を加えてくると思い込んでおり、決して自らの真の姿が周囲にばれないように親家族から学校の教師まで、あらゆる人々の前で「道化」を演じ、自分を偽りながら行きていく事を選んでしまいます。

そして歪な家庭環境も重なって、主人公の人間不信と道化ぶりは深刻になっていきます。

東京に出てきてからの壮絶な過程

成長した主人公は東京の学校に進学するのですが、そこで自分と同じような落語者や、反社会的な組織といった一般社会には馴染めない除け者的な人々に軽蔑の念をいだきながらも親近感を持ち、彼らと関わっていく事で主人公自身も酒や女を覚え、学校にも中々出席しないようになってしまいます。

勿論東京でも主人公は自分の素面を見せることは無く、次第に周囲から好かれ、女性にモテ始めて行くのですが、ある時組織からの度重なる活動の依頼にうんざりした主人公は、彼らのコミュニティから逃げ出してしまい、その自己嫌悪によって自殺することを決意します。

そしてその時に好意を寄せてくれていた女性の一人と入水自殺を図るのですが、女性だけが亡くなって主人公は生き残ってしまいます。

これによって主人公は自殺幇助罪で少しばかり警察の厄介になり、それが原因で実家とはほぼ縁を切られ、親戚の家に居候として転がり込む事となります。

そこからの過程は壮絶で、新しく出来た妻に裏切られ、再び自殺を図って失敗し、酒に溺れ、薬に溺れ、最後には東京を出て田舎で廃人のように余生を過ごす事になります。

そういった過程もあって、手記の終わり際に主人公は自らを人間失格と表現し、「ただ、一さいは過ぎて行きます。」という空虚な言葉が繰り返されて彼の手記は終わります。

そして物語は、主人公が良く行っていたスタンドバーのマダムの「私達の知っている葉ちゃん(主人公)は、とても素直で、良く気が利いて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、神様みたいないい子でした」という言葉で締められます。

この終わり際の登場人物たちのセリフには、子供の頃から頑なにずっと道化を演じ続け、最後には身も心もボロボロになってしまった男の、何とも言えない虚しさを感じます。

自己嫌悪に苛まれる人物が主人公であり、悲惨な人生を送る描写が多いこの作品ですが、そこには逞しさや開き直りと言った物も感じられ、悲惨なはずの物語にどこかコメディの様な戯けた雰囲気がある部分があるように思ってしまう所には、太宰治の実体験を伴ったリアリティのある卓越した表現の仕方と、作中で何度も出てくる道化という自嘲をより印象的にさせてくれているように感じました。

太宰治自身の人生をモデルにした作品

この主人公の人生は、筆者である太宰治の人生とリンクする部分があり、実際に太宰治自信も女性と自殺を図って自分だけが助かってしまった事や、薬に溺れた過去を持っていますので、本作は所謂自叙伝的な物でもあります。

最後に主人公が「神様みたいないい子」と呼ばれたように、この太宰治自身がモデルになった主人公は本当に純粋な人物で、それ故に、互いにお世辞を言い合い、そして隠れて互いに悪口を言い合う人々の情緒を理解できず、どんどん歪んでいってしまったのだと思います。

これは世間一般というものに対する当時の太宰治の心境が、この物語の主人公を通して切実に訴えられているように思われました。

この作品はそんな所謂人間的とも言える様々な性質を、自分自身も含めて否定し、けれども心の奥底では人間の優しさや誠実さに期待しているが故に、そんな人々の一員として生きて行こうとするという、大変な葛藤や苦悩を感じさせられます。

この人間失格を書き終わった後、太宰治は遺作である「グッド・バイ」の執筆中に入水自殺を行い、38歳の若さでこの世を去ってしまいます。

裏表紙の説明欄には「人が人として、人と生きる意味を問う、太宰治、捨て身の問題作」という記述がされておりますが、正にこの作品は太宰治の命を賭けた告発のような物だったのではないかと思います。

太宰治はその好き嫌いが非常にはっきり分かれる作家としても有名で、この作品も万人にオススメ出来る内容ではありませんが、今ならAmazonのKindle版が無料で読めますので、興味のある方は是非一度試しに読んでみては如何でしょうか。

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