今回はSteamなどで販売されているFPSゲーム「Nosferatu: The Wrath of Malachi」の批評です。
このゲームは以前からB級FPSゲームの名作と言われてきた作品なのですが、自分がホラーゲームが苦手なのもあって中々プレイしようと思えず、長らく積みゲーになっていました。
ですが実際にプレイしてみると当初のイメージとはかけ離れた作品で、その内容も非常に面白かったので今回批評を書いてみる事にしました。
内容はネタバレを含んでおりますので、未プレイの方はご注意下さい。
また、このゲームは日本語に対応しておらず、日本語化なども出来ないのですが、有志の方がSteamのページでこのゲームの日本語ガイドを作成してくださっておりますので、プレイする際にはこちらに目を通しておくことをオススメします。
概要
本作「Nosferatu: The Wrath of Malachi」(訳:ノスフェラトゥ~マラカイの怒り)は、今から17年程前の2003年10月21日にスウェーデンのIdol FXという会社がPC向けに作ったFPSゲームで、現在ではSteamなどでダウンロード販売が行われております。
内容は1917年、没落貴族であるパターソン家の令嬢であるレベッカと、莫大な財産を持つマラカイ伯爵の息子との婚礼の為、バターソン家とその友人達がマラカイ城を訪れた所、なんとそこは吸血鬼となったマラカイ伯爵が支配する様々な化け物のうごめく悪魔の巣窟で、親戚や友人も含めたパターソン家の人々は城の地下に封印されている古代の吸血鬼王マラカイ復活の為の邪悪な儀式の生贄として人質になってしまいます。
その後、フェンシングの代表選手で試合の為に少し遅れてマラカイ城に到着した主人公が、人質となった家族を救うために孤軍奮闘するというお話になっております。
ジャンルはホラーで、下の画像のパッケージ版のジャケットや、サンプル画像などもそれっぽい雰囲気が醸し出されております。
特徴
最初はホラー、慣れてくるとアクションゲーム
実際にゲームをプレイしてみると、最初の部分は急に敵が飛び出して来てこちらを驚かしてきたり、城内の薄暗くてどこから敵が出てきたもおかしくない雰囲気などがあって、これらは十分にクオリティの高いホラーゲームの分類に入るものだと思います。
ですがこのゲームにはホラーだけではなく、後述するFPSとしてのアクション要素や、一部のマップの構造や人質の位置などが新しくゲームを初めた時やドアを開けた際に変化するという、当時としては非常に珍しいローグライクの要素も取り入れられており、それらの部分がこのゲームのホラー要素をうまい具合に中和して、ゲームの仕様に慣れた頃には良質なアクションFPSゲームとして遊べるようになっております。
犠牲者が出る前に人質を救出して連れ帰る
ゲームの流れとしては、巨大な城の中を探索しつつ、襲いかかってくる敵を倒しながら鍵などのキーアイテムを入手し、各部屋などに捕まっている人質を見つけて安全地帯である聖域に連れ帰るという事を繰り返していきます。
城の構造は大きく分けて東、西、中央に分かれており、最初は東、次に西、最後に中央の城を攻略していくことになります。
また、このゲームには時間制限の概念があり、一定時間が経過する毎に各人質のキャラクターが死亡していきます。
人質が死んだとしてもゲームオーバーにはならず、そのままゲームを進める事が出来ますが、人質を救出することで手に入るパワーアップアイテムや強力な武器などが存在する為、救出できなければ出来ない程に城の攻略はキツくなって来ます。
また、余りにも時間を掛けすぎてしまうと夜明け頃に主人公の姉であるレベッカが死ぬ事で儀式が完遂され、ラスボスが完全復活してゲームオーバーになってしまいます。
悪いと思った点
AIの挙動不審さ
殆どの部分は非常に高いクオリティを感じさせるこのゲームなのですが、幾つか少し残念な部分もありまして、その一つがこのAIの挙動不審さです。
人質となっているキャラクター達はプレイヤーに発見されると追従状態になって後を付いてくるのですが、時折うまく付いてこずに少し目を話すとどこかに消えてしまったり、エレベーターに置き去りにされたり、段差から落ちて落下死することがあります。
特に途中から仲間に出来るバスター(Buster)という名前の犬が居るのですが、この犬が敵を攻撃することが出来るためなのか、壁の向こう側に居る敵に反応してそちらの方向に猪突猛進し、
壁に向かって走り続けたり、
時には壁を乗り越えて投身自殺を図る事がありました。
昔のゲームなのでしょうがないとは思うのですが、せっかく苦労して見つけ出した生存者が、ちゃんと付いて来なくて勝手に死んだり行方不明になったりするのは流石に堪えました。
進行不能になるバグ
城をある程度進むとボス戦になるのですが、このゲームのボスキャラは吸血鬼なので単純に倒すだけでは完全には死なず、コウモリになって自分の棺桶まで逃げ、そこで眠る事で体力を回復しようとします。
ボスを完全に殺す為には、棺桶まで行って眠っているボスの心臓に杭を刺さなければならないのですが、稀にボスを倒しても棺桶に戻ってくれない時があり、その場合はキーアイテムが手に入らずゲームが進行不能になってしまいます。
一応ボス戦の前にセーブして、バグが発生しなくなるまでボス戦をやり直すという対策方法はあるのですが、初見の方からするとこれがバグなのか仕様なのかが分からずにかなり混乱するでしょう。
あと、進行不能になるわけではないのですが、城の中を探索していると、何故か体力が突然0になって即死することがあります。
こういった事がありますので、プレイ中はF5キーでこまめにクイックセーブをしておいたり、定期的にセーブファイルを分けたりするなど、バグに遭遇した時様の保険をかけておく事をオススメします。
因みに私はこれらのバグで進行不能になり、3回程このゲームを途中からやり直しました。
マップやナビが無いので迷子になる
このゲームには今どきのゲームが大抵備えているマップや、明確なナビのような物が無い為(一応ヒントとして緑色に光っている場所を辿るとキーアイテムにたどり着けるんですが、この光がヒントであるというアナウンス自体は無いのでただの演出と思いがち)広い城内では迷子になったり、次に行くべき場所が分からなくなってしまう事が多かったです。
この点が一番顕著だったのが最初のボスと屋上で戦った後に、スロープを使って一段低い場所にある屋根まで降りて、その屋根に空いている穴からボスの棺桶まで行くという部分なのですが、ボスを倒した後に行くべきスロープが分かり辛い所に設置されているのはちょっとどうかと思います。
一般的なゲームでは、ボスを倒すと閉まっていた扉が開いたりといった様な、次に行くべき場所を示す為の短いムービーが流れますが、このシーンでもそういった配慮が欲しかったですね。
この緑色に光っている瓦礫の様な物の向こう側にスロープがあるのですが、
この少し高い崩れた壁があるせいで、屋上からちらっと見ただけだとここにスロープが存在している事すら分かりません。
崩れた壁の上にジャンプで乗ってようやくスロープが見えます。分かりにくい・・・。
制御し辛いキャラクターの移動
これは当時の技術的な問題だったのかもしれませんが、このゲームのキャラクターは坂道などで異常に滑ります。
これは階段を下りる時に特に顕著で、階段を下っている最中にダッシュするとその滑る勢いで階段から足が離れて宙に浮いた状態になります。
このゲームには落下ダメージが存在する為、高い所でこれが発生すると足を踏み外して致命傷を受けかねません。
上記のAIがたまに落下死してしまう原因の一つがこれで、早く安全地帯に連れていきたいからとダッシュで引率していると、階段や段差などですっ転んだり、宙に浮かび上がってそのまま奈落に落下することがあります。
段差で滑ってフワッと宙に浮き、
ビターン!と転倒。
難易度Mediumでは落下ダメージがそこまで大きくないのか、これだけで人質が死ぬという事はありませんでしたが、操作性的に不安な気持ちになる事が多々有りました。
早く死にすぎるメリッサと絶対に救えないレベッカ
生存者救出系のゲームでは恐らく誰もが全ての生存者を救出する事を目指すと思います。
ですがそんなプレイヤーの障害となるのが生存者の1人であるメリッサというキャラクターです。
彼女は第2ステージに当たる西棟の最奥で救出出来るキャラクターであるにも関わらず、ゲーム開始後から僅か約1時間後の11時50分辺りで死亡アナウンスが入る為に救出するのが恐らくこのゲームで一番難しい生存者かと思われます。
普通のゲームで約1時間というと長く感じる方も居ると思いますが、彼女の居る西棟に入る為にはまず東棟を攻略する必要がある点、救出した生存者は敵が主人公と同じフロアに存在した瞬間に強制的に行動不能(または敵を倒すまで戦闘状態)になってしまうので、時間を短縮する為に敵を倒さずに無視するというスルー戦法が使えない点、生存者の位置がプレイ毎に変化するというランダム制によって、城中の部屋を片っ端から探し回らなければいけない点などがあって、少しでも手間取るとすぐに時間切れになってしまうので、このキャラクターのせいで全員救出はかなりシビアな難易度となっております。
恐らく初見の方は高確率でメリッサを救出することは出来ないでしょう。
道中に出てくる敵の耐久力も割と高いので、それらを排除する時間を考えると最低難易度でなければ全員救出は難しいと思います。
そしてレベッカですが、このキャラクターはラスボスの部屋に入った際に流れるムービーの演出で、胸をナイフで貫かれて死んでしまいます。
海外Wikiなども調べましたが、どうやらゲーム開始時からこの彼女の死体のモデルは既に用意されているとの事で、救出は最初から不可能な様です。
彼女の死体を調べると、「Your sister is dead and there is nothing you can do to change that.」(訳:あなたの姉は死んだ、それを変えることは出来ない)
と出てきます。
出来れば全員を救い出せるようなルートも用意して欲しかったですね。
良いと思った点
非常に怖い序盤
城内に足を踏み入れた時に感じる不気味さと、時折どこからか聞こえてくる伯爵の笑い声、突如襲いかかってくる化け物の恐ろしいモデルなどはもうベタ過ぎる程に王道のホラー物で、最初はビクビクしながら探索していました。
敵の攻撃によるダメージも馬鹿にならないので、ちょっとでも油断すると死んでしまう事や、早く生存者を救出しなければならない事もあって、2020年の今出てくるゲームなどと比べれば非常に荒っぽいグラフィックながら、程良い緊張感を持ってゲームをプレイすることが出来ました。
突然窓や床を派手な音で叩き割って敵が出てきたり、天井や床が崩れるなどのホラーでは定番ネタもちゃんと取り入れられており、しっかりとこちらをビビらせて来ます。
FPSの一人称視点ということもあって、まるで巨大なお化け屋敷に居るような臨場感を味わうことが出来ました。
徐々に敵に対処出来るようになって楽しくなる
ホラーの演出にも徐々に慣れ、怖さも段々薄れてくると、今度は敵との戦闘が楽しくなってきます。
このゲームには9種類の武器が有り、殆どの武器はそれぞれに特有の強みがある為、それらを使い分けて様々な敵をなぎ倒していくのが非常に面白いです。
例えばヒット時に相手を怯ませる上に連打が早く、タイマンの戦闘では敵をハメ殺す事が出来るので剣よりも強い素手や、
特定の敵のみに絶大な効果を誇る十字架、
1発毎にリロードが必要ですが殆どのザコ敵を一撃で倒せるフリントロックピストル、
ラスボス含め殆どの吸血鬼タイプの敵をワンパンで即死させる聖水など、
これらの多くの武器をうまく使う事ができれば、殆どダメージを貰わずに状況を切り抜けていく事が可能です。
基本的にはこのゲームの戦闘は、敵を強力な武器で時間を掛けずに即死させるか、素手でハメて倒すかの2択なのですが、うまく敵を捌いて湧いてきた敵をノーダメージで完封できた時の爽快感は、他のゲームでは中々味わえない物があります。
銃は強力な代わりに弾が有限で入手手段も限られている為、節約しておかないといざという時に対応出来ずピンチに陥るのですが、そんなシビアな所も魅力の一つです。
この大味ですがテンポの良い戦闘に加えて、制限時間内に人質を救出するという目的が加わることで、ゲームに慣れてくるとまるでRTAの様に城内を爆走して汎ゆるドアを開けまくり、並み居る化け物を最適の武器で瞬殺しながら進む様になり、当初のホラーゲームの楽しさとはまた異った面白さを味わうことが出来ます。
クオリティが高く場面を盛り上げてくれるBGM
音楽には非常に力が入っており、オーケストラによる迫力のあるBGMが不気味な城の雰囲気を更に掻き立ててくれています。
そのサウンドの迫力はゲームに臨場感を出す為の役割を通り越してやや過剰な程で、常にクライマックスの様な音量と迫真のBGMがプレイ中の大半で鳴り響きます。
ですがBGMを制御するプログラムが優秀な為か、絶妙なタイミングでBGMが止まって無音になったり、場面に合わせた物に切り替わるので、音量のクソデカさはともかく不思議と耳障りには感じませんでした。
このゲームにはまるで映画の世界に入り込んだかの様な臨場感があり、城の探索作業にも徐々に夢中になってしまうのですが、それはこのBGMのお陰と言っても過言ではありません。
リプレイ性の高いローグライク要素
時間制限があることもあって、ゲーム全体のボリュームはやや短いのですが、ニューゲーム毎に人質の居場所や一部のマップの構造が変化するローグライク要素が取り入れられたことで、何度でも繰り返し遊ぶことができる高いリプレイ性を持っております。
当時ではまだ非常に珍しかったこのローグライク要素を取り入れた点には、本作のクリエイターが持っていた先見の明や技術力の高さを窺い知る事が出来ます。
作り込まれたマップの雰囲気
今の作品と比べてしまうと流石にグラフィックの面では見劣りしてしまいますが、それら一つ一つのモデルの作り込みは非常に凝っており、光源をうまく使ったマップや、様々なモンスター、派手な音楽など、世界観の構築には非常に手間を掛けたであろう部分が多々見られ、そのクオリティの高さにはグラフィックの古臭さを感じさせない程の魅力を感じました。
ラスボスとの決戦の場所が、本来吸血鬼が苦手とする太陽の紋章が施されているドアの向こうという部分にもセンスを感じました。
まとめ
アクション ☆☆☆☆
坂道などでの挙動に少し癖がありますが、敵を様々な武器で倒していくのは楽しく、敵キャラのモーションも多彩で様々な動きで攻撃を行ってきますので、単調ではない緊張感のある戦闘を繰り返していくことが出来ます。
ストーリー ☆☆☆
本筋のストーリーは吸血鬼に攫われた家族を救い出すという良くも悪くもシンプルなものですので、壮大なストーリーを望んでいる方にとっては少し物足りないかなと思います。
音楽 ☆☆☆☆☆
こちらの恐怖心を掻き立てるBGMのクオリティは素晴らしく、扉を開く際の効果音や敵の叫び声などと相まってこのゲームのホラーゲームとしての側面を更に際立たせています。
品質 ☆☆☆☆
AIの行動がたまにおかしくなることや、進行不能な状態になるバグなども存在していますが、敵のモデルや城のオブジェクト、しっかりと対処すれば状況を切り抜けられる程よい難易度やローグライク要素などの良さもあり、まだ技術的に難しい事が少なくなかった2003年当時のFPSゲームとしてはかなり高い完成度だと思います。
総評 80/100点
とても怖いホラーゲームですが、ただ怖いだけでは無く、しっかりとアクションFPSゲームとしても十分に楽しめる隠れた名作です。
たまにSteamなどでセール品としてかなり低価格で販売されている事がありますので、興味のある方は是非プレイしてみて下さい。
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