今回は.hack//G.U.シリーズのVol1~Vol4がプレイできる作品、.hack//G.U. Last Recodeに含まれている、Vol1 再誕の批評です。
日本語対応について
ゲームは完全に日本語に対応しており、言語面での問題はありません。
作品概要
.hackシリーズと言えば、アニメ、漫画、ゲームと、様々なメディアに展開され、現在のソードアート・オンラインなどに続く、オンラインゲームを題材にしたSF作品の金字塔とも言える大人気シリーズですが、.hack//G.U. Last Recodeはその中のG.U.シリーズVol1~Vol3に加えて、その続きである新たなエピソードとしてVol4が追加された物です。
.hackの世界は科学が発展した近未来で、その科学技術を用いて開発されたオンラインゲームである「The World」が、このゲームの舞台になっております。
主人公であるハセヲもこのThe Worldのプレイヤーの一人なのですが、ある日彼の憧れの人である志乃という人物が、トライエッジ(三爪痕)というキャラクターにPK(Player Kill)されたことによって、現実世界で昏睡状態になってしまいます。
その後、ハセヲは現実世界の志乃を昏睡状態から目覚めさせる為にトライエッジを探し出して戦いを挑むのですが、返り討ちにされた挙げ句、何らかの力によって使用キャラクターを初期状態に戻され、レベルが1になってしまった所からこのゲームの本筋が始まります。
.hackの特徴
このゲームの特徴はなんと言ってもThe Worldというオンラインゲームが舞台になっているということでしょう。
この.hackの世界には、オンラインゲームとは別のそれを取り巻く現実世界がちゃんと存在しており、プレイヤーはThe Worldにログインして、ゲーム本編のストーリーを進めて行くだけでなく、自分宛てに来たメールをチェックしたり、ニュースサイトや掲示板、The Worldの公式ページや掲示板にアクセスして、様々な情報を集めることが出来ます。
良いと感じた部分
世界観の作り込み
.hackの世界は科学が非常に発達していますので、人々はその様々な技術の恩恵を受けて生活しているのですが、それが只の設定としてプレイヤーに与えられるのではなく、実際にゲーム内で閲覧できるニュースや掲示板の書き込みなどで表現されています。
これは、プレイヤーがゲーム内では実際に操作できない現実世界の存在をよりリアルに感じることが出来る為に、演出としてとても効果的に思えました。
特にニュースで表示されるVTRなどの映像は全てアニメーションで表現されておりその作り込みから開発陣の熱量が伺えます。
中でもThe Worldをプレイしている人間が昏睡状態に陥ってしまう現象、通称ドール症候群に関するニュースは、主人公であるハセヲのThe World内での行動とリンクしている部分がある為、プレイヤーはより臨場感を体験しながらゲームを進めていく事が出来ます。
他にも掲示板での噂などから情報を得る、メールで他のキャラクターと会話する、などのオンラインゲームという設定を活かした要素もあり、戦闘やレベル上げと言った昔ながらのRPGの楽しみ方の他に、情報集めや他のキャラクターとのコミュニケーションという楽しみ方を提供してくれています。
コミュニケーションの際にはネット上での会話らしく、笑う事を表す「w」や顔文字などが使われているのもこのゲームならではの表現方法でしょう。
中にはお絵かき掲示板という設定でThe WorldのCGが公開されていたりと、開発陣の遊び心を感じれる要素も用意されております。
引き込まれるストーリー
このゲームはオンラインゲームを題材にしている為、例えばファイナルファンタジーやドラゴンクエストのような王道ファンタジー物の作品の類と比べると、主人公が実際に生きている現実世界の出来事ではないという点で一見陳腐なものになりかねない部分があるのですが、ゲームのプレイヤーが昏睡状態になってしまうというリアルの人命に関わる要素を加えることで物語に緊迫感を生み出し、更に多くの謎をチラつかせる事によって、先が気になる質の高いストーリーに仕上げられております。
主人公のハセヲ自身が未熟な少年ということもあって、The Worldでの他者との出会いを通して成長していく王道的な要素もあり、この辺りの話作りの上手さは流石ゲームだけではなくアニメや小説などの多くのメディアに展開している作品なだけはあると感じました。
合間合間に挟まれるムービーのクオリティも高く、非常に丁寧に作られているという印象です。
また、主人公であるハセヲが結構ひねくれた人物であることも魅力の一つでしょう。
オンラインゲームという設定を活かしたゲーム性
ゲームの本筋はオンラインゲームであるThe World内で進行するので、その際の行動は全て実際のオンラインゲームようなUI(ユーザーインターフェース)を利用して進めていく事になります。
パーティーメンバー選び
例えば普通のRPGゲームでは戦闘に出すキャラクターを選択する方法は、単純にメニュー画面で表示される一覧からキャラクターを選ぶだけというのが多いですが、このゲームでは戦闘に参加するキャラクターを選ぶ為には実際のオンラインゲームのように一旦パーティーに誘うという形式が取られています。
そしてパーティーに誘う際には主人公が相手に対してショートメールを出しているという設定になっております。
その後に相手から返信が表示され、パーティーメンバーに加わる事になります。
パーティーに加えることが出来るキャラクターはオンラインになっているキャラクターだけと、ここも実際のオンラインゲームを意識した仕組みでしょう。
ですがそのかわりオンラインになっていないキャラクターはパーティーに参加させることが出来ないので、好きなキャラクターのレベル上げなどは少しやりにくいところがありました。
ダンジョン選び
ダンジョンを選ぶ際には実際にフィールドを通ってその場所に足を運ぶのではなく、ワープポイントでエリアワードという単語を3つ選択して、その組み合わせでダンジョンを選ぶようになっております。
エリアワードの組み合わせによってそのダンジョンに出現する敵のレベルや入手できる宝などのレアリティが決定される為、自分の今のレベルに合わせたダンジョンを選ぶことが容易にできるようになっております。
この辺りの設定はゲームに不慣れな初心者の方でも、難なくレベル上げなどの作業を行う事が出来るようにする為の配慮かと思われます。
このようなダンジョンの選択方式は、普通のRPGでは少し不自然に思えてしまいますが、多くの人々が遊ぶオンラインゲームという設定であるこのゲームでは自然にそれを組み込む事が出来ております。
悪いと感じた部分
戦闘が単調
ストーリーは面白いのですが、その反面戦闘面は結構単調な作りに感じました。
攻撃の手段は主にボタン連打によるコンボ攻撃と、アーツと呼ばれる技の2つですが、戦闘は敵にボタン連打で攻撃→タイミング良く技を使用、の繰り返しであり、最初の内はテンポよく感じるのですが、慣れてくると同じ動作を何度も繰り返さなければならない戦闘に飽きが来てしまいました。
一応通常攻撃のモーションを防御でキャンセルすることが出来ますので、それを用いると戦闘の単調さも多少は薄れるのですが、やはり絵的に大きな変化はない為、レベル上げなどの際には作業感が強いです。
また、大抵の敵の攻撃は最初の一撃が当たるとそのままコンボが確定し、他の味方が割り込んでくれない限りは一定のダメージが確定しますので、それを防ぐために防御を行うのですが、最初の一撃を防御すると相手のコンボの終りまで待たなければいけない為、これも戦闘の単調さを増してしまっている要素だと思います。
また、敵が複数かつ魔法や技を多用してくる場合は、一部の敵以外はどんなに離れた場所からそれが放たれても、必ずプレイヤーにヒットしてしまう回避不能な仕様になっていますので、それらの攻撃を凌ぐ方法は敵の攻撃が一旦全て終わるまで防御をし続けるしか無く、プレイヤーの操作スキルによって状況を改善できる余地が殆どありません。
ですが、憑神(アバター)を用いた戦闘では敵の攻撃をこちらの攻撃で弾き返す、ダッシュで回避してその隙を狙うという割と自由でテンポの良い戦闘を行うことが出来ますので、こちらは通常の戦闘とは打って変わってとても面白く感じました。
敵にとどめを刺す際には、時間制限内にデータドレインという必殺技を当てなければいけないという設定も、無理がなく自然な設定である上に戦闘で求められるアクション要素を増やしていてとても良いと思いました。
恐らくこのゲームの戦闘が単調なのは、こういったアクションゲームに慣れていない方に配慮した結果かと思われます。
特にプレイヤーの操作量が増える憑神(アバター)戦では、しつこいぐらいに操作説明やヒントが画面に表示されますし、この辺りを見るに、このゲームのターゲットである層は普段からゲームをプレイしていて、アクションゲームの操作に慣れているような層では無いのでしょう。
.hackは多くのメディアに展開している作品ですので、他の漫画、小説、アニメと言った媒体から入ってきたプレイヤーにとって、難しすぎないように調整されているのだと思われます。
思い通りの戦闘がやり辛い仕様
一部の敵にはコンボ攻撃の終盤のリーチが短すぎて攻撃が届かずコンボが繋がらなかったり、味方との連携を行いたいので自分が狙っているのと同じ敵を味方にも狙わせる為に指示を出しても、AIが別の敵を狙い始めてしまうこともしばしばあり、この辺りの作りは少し甘いと思いました。
特に敵が複数いる場合には、このゲームの攻撃を行う敵をまずロックオンするという仕様が足を引っ張り、攻撃したい敵ではなく別の敵にロックオンが吸われてしまうという事もありました。
例としてキングダムハーツなどはこの辺りの操作性をとてもスムーズに行えるようになっているのですが、本作は防御によるモーションキャンセルを使用しなければ通常のコンボ攻撃時の硬直が長過ぎたりと、色々と戦闘時の操作性を悪くする要素が多いです。
少し会話シーンやムービーが多すぎる
ストーリーに力を入れているのでしょうがない部分はあるかと思うのですが、キャラクターの会話シーンや差し込まれるムービーの量が、戦闘などに比べて多いように思いました。
特にアリーナのシーンでは戦闘の途中で会話シーンが差し込まれる部分があったりと、シナリオを見せたいのは分かるのですがそれによってテンポが悪くなっている印象を受けました。
ゲームのボリュームが少ない
これはシナリオがエピソード構成になっている事も原因かと思われますし、Vol1~Vol4までのエピソードが収録されているLast Recodeでは問題にはならないのですが、それを考慮してもこのVol1はかなり速く終わってしまったように感じました。
実際に私が今回このVol1のメインシナリオをクリアするまでに掛けた時間は、以下の画像に示されているように18時間10分20秒なのですが、これはレベル上げの時間、ゲーム内の掲示板やニュースを閲覧していた時間、ムービーを見ていた時間、サイドクエストを行った時間、などが含まれている為、実際にプレイヤーがメインシナリオでゲームを操作できる時間は14~16時間程度かと思われます。
Vol2、やVol3のシナリオありきのゲームですのでこの短さなのでしょうが、当時は次のVol2発売までに約4ヶ月程の間がありましたので、リアルタイムでプレイしていたユーザーは少しもどかしい思いをしたのでは無いでしょうか。
まとめ
アクション ☆☆
通常の戦闘は最初の内はテンポが良くて楽しく思えるのですが、敵や装備が変わってもやることがあまり変わらない為に徐々に単調さを感じてしまいました。
その反面、憑神(アバター)を用いた戦闘は敵ごとに異なる攻撃の回避方法が用意されてアクション性が高い物になっている為、こちらは結構面白く感じました。
憑神(アバター)戦で行っているように、通常の戦闘ももっと操作性が良くて、ダッシュによる回避や、攻撃によって相手の攻撃を弾き返すような事が出来れば単調にはならなかったと思うので、このあたりは少し勿体無いように思います。
ストーリー ☆☆☆☆☆
シナリオは文句無く面白く、2018年の今見ても古臭さを殆ど感じさせない雰囲気と完成度になっていると思います。
強引な話の導入や不自然な点は少なく、Vol1はVol2に続く為にラストシーンが中途半端な部分で終わってはいるものの、全体的にきれいにまとまっているシナリオになっていると思います。
また、ゲーム内で表現される現実世界も、現代の社会に近いものがあり、こういった時代が来ることをまだiPhoneも無かった2006年に予想していたのは驚きです。
音楽 ☆☆☆☆
街の音楽やギルドホーム内の音楽、ムービー中に流れてくる音楽など、それぞれの場所に合わせた雰囲気の曲が流れている為、違和感なく世界観に没頭することが出来ます。
攻撃や防御、箱を開ける際などに鳴る効果音にも不自然なものはなく、こちらも違和感を感じることはありませんでした。
BGMの中にはコーラスが用いられているものもあり、ゲーム空間の神秘的な雰囲気を良く表せていると思います。
品質 ☆☆☆☆
3Dモデルを使用したゲームにありがちな、ムービー中のキャラクターの腕や髪が体にめり込むというような事も殆ど無く、致命的なバグもありませんので、結構な品質を保っていると思われます。
グラフィック面においては2018年の今から見るとやはり2006年発売のゲームだけあって多少粗く感じてしまう部分はありますが、オンラインゲームの世界観を良く表しているUIや、ログアウトをする時の演出など、実に良くできていると感じました。
総評点数 75/100点
このゲームはムービーや会話シーンが多い為、アクションRPGというよりは、どちらかというとノベルゲームやアニメーション作品のような側面が強いゲームになっています。
その為、アクション性に期待してこのゲームをプレイすると、少し期待外れな印象を受けてしまうかもしれません。
シナリオの質が高い為、それでも退屈なゲームにはなっていないのがこの作品の凄い所ですが、やはりもうちょっと戦闘面を面白くして欲しかったですね。
シナリオは全体的に良くまとまっており、しっかりと作られた世界観はとても魅力的で、オンラインゲームを一切プレイしたことがない人でもその独特の雰囲気を味わうことが出来るでしょう。
因みに声優陣はとても豪華で、櫻井孝宏、川澄綾子、三木眞一郎、阪口大助、などなど普段からアニメを見ている人であれば皆どこかで声を聞いたことがある方ばかりな為、この辺りは流石日本製のゲームならではと言った所でしょう。もちろん演技力も十分で、ムービーや会話シーンでそれを余すところなく発揮してくれているので声優ファンの方々にとっても嬉しい作品なのではないでしょうか。
現代ではオンラインゲームというものを題材にした作品は他にも色々とありますが、この.hack//G.U.はその代表的な作品である為、現代のオンラインゲーム物が好きな方には是非一度プレイしてもらいたい作品です。
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