【ゲーム批評】危険な星雲から脱出せよ!Void Basters

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今回は、バイオショックの元開発者が制作に関わっているローグライクFPSゲーム「Void Bastards」の批評を書きます。

内容はネタバレを含みますのでご注意下さい。

日本語について

公式の方で日本語に完全対応しておりますので、言語面で困ることはありません。

ただ、固有名詞が多い為、プレイを始めたばかりの最初の時期は言葉の意味がわからずに苦労する事になると思います。

概要

本作は、囚人の集団である「クズ人間の寄せ集め(公式紹介原文ママ)」のボイドバスターズ達を操作して、彼らをサルガッソという名の星雲から脱出させる為に、モンスター達が潜む様々な宇宙船に忍び込み、必要な物資を集めていくゲームです。

本作の物語は、囚人の移送中、操縦不能状態に陥り、生きては帰れない程に危険とされているサルガッソ星雲を漂流する事になった輸送船「ボイドアーク」のAIが、囚人の移送任務を達成する為に彼らを使って状況を打開しようとする、というのが大まかな流れです。

Void Bastardsの特徴

Void Bastardsはユニークなゲームで、特定の主人公がおらず、プレイヤーが操作している囚人が死ねば、すぐに別の囚人の肉体を使ってゲームを進めていくという設定や、アメコミを意識したのか、ゲーム内ではムービーの代わりにコミック風の表現を使って物語の過程を表現したり、敵の足音などが文字で表示されるなど、中々類似品が思い浮かばない一風変わった表現がされています。

敵は一部を除いて殆どがモンスターで、青色の弾丸を飛ばしてきたり、近寄ると爆発したりと個性豊かな攻撃を行ってきますが、どの敵キャラにも何らかの対応策が用意されており、兎に角銃で撃ちまくって何とかするタイプのゲームではなく、的に合わせて攻撃手段を変えるという一種のパズルゲームの様な面も持っています。

また、敵と戦って全滅させるのではなく、物資を集めて生還する事が目的である為、探索ゲームとしての面が強く、生還した後はそれらのアイテムを用いて新しい装備を作り、自らを強化していく成長要素もあり、たくさんの要素が詰め込まれている作品です。

ちなみにタイトルのVoid Bastardsという言葉の意味ですが、Voidが「役に立たない・空っぽ」と言った意味で、Bastardsは「ろくでなし・嫌な奴」という意味のスラングですので、直訳すると「役立たずのろくでなし」という感じの意味になってしまい、何とも身も蓋もないタイトルではありますが、プレイヤーが操作するキャラクターは囚人で、他のキャラクターもモンスターや宇宙海賊というこのゲームには相応しい名前なのかもしれません。

また、他の一般的なFPSゲームと比べると若干難しい類の作品に入ると思いますが、こういったローグライク風のゲームには珍しくベリーイージーからベリーハードまでの幅広い難易度設定が可能ですので、難しすぎて詰んでしまうと言った事はないと思います。

悪いと思った部分

ジャンプが低い

通常のFPSでは障害物を飛び越えたり乗り越えたりと言った事は難なく出来る物が多いのですが、本作ではキャラクターのジャンプで飛べる高さが低く設定されていますので、地面に落ちている障害物に引っかかってしまったり、ジャンプで乗り越えようとして苦戦することがあります。

敵との戦闘中や、酸素切れが近くて急いでいる時などにこれが発生すると非常にもどかしい思いをしますので、出来ればジャンプの高さは一般的なFPSと同じぐらいの値に設定しておいて欲しかったです。

敵が無限湧きする仕様とステルス要素の相性の悪さ

敵は「リフト」と呼ばれる地面に空いた青く光る穴から、一定時間ごとに生み出されるようになっており、基本的に全滅させる事は不可能になっています。

そしてこのゲームでは、しゃがみ移動をしたり、敵の視界に入らないことによって、敵との戦闘を避けるステルス要素があるのですが、酸素によって活動時間に制限がある事に加えて、この敵が無限湧きする仕様のせいで、敵に見つからないようにゆっくりと宇宙船を捜索していると状況がどんどん悪くなってしまいますので、体力が上がったり装備が充実してくると、隠れずに走ってゴリ押しした方が効率が良い場合も多く、折角のステルス要素が余り活かされていないように感じました。

慣れるまではとっつきにくい仕様

他の宇宙船を巡りながら物資を補給し、船の燃料や食料、弾薬などを集めて次の戦闘に備えるという仕様は、その丁度良い配分や効率的な探索の仕方、各敵への対処方法などをある程度覚えるまでは四苦八苦する面もあり、序盤は装備も整っていない為に何度も死亡するので、プレイヤーが成功体験を得られる様になるまでが長く、こういったプレイスキルとキャラクターをじわじわと成長させていく類の作品に慣れていない方は、序盤の作業の時点でゲームを投げ出してしまうのではないかなと思いました。

一応後半では死亡しても復活出来る機能を開発できたりと、初心者救済とも言える強力な装備を作ることが出来るのですが、それらの装備を作るための素材は何度も宇宙船に潜入して少しずつ地道に集めていかなければならず、地道な作業やトライ&エラーを繰り返す事に楽しみを見いだせない方には余りオススメできないゲームの様に思います。

弾薬の節約する手段が乏しい

弾薬が貴重なゲームでは、いざという時の為に出来ればなるべく使いたく無い場合が多いと思います。

例えば本作の開発者であるJonathan Chey氏がディレクターを務め、その完成度の高さと独特な世界観によって数々の賞を受賞した名作FPS「バイオショック」では、銃弾の残りが心許ない場合や、比較的対処が楽な敵が出てきた場合には、弾薬を節約する為に、近接武器であるレンチで敵を倒すという選択肢がありましたが、このゲームにはそういった近接武器という物が無く、敵を倒す際には必ず何らかの武器の弾を消費しなければいけないので、隠れて敵との戦闘を回避したり、ダメージを受けること覚悟で、攻撃を放ってくる敵を無視してマップを逃げ回ったり、ヘッドショットでダメージが上がる仕様を利用して出来るだけ頭を狙って少ない弾薬で敵を倒す、といった方法でしか弾薬を節約する事が出来ません。

この点はサバイバルゲーム要素のある本作において、武器を温存するという重要な選択肢の幅が狭くなってしまっているように感じますし、潤沢に弾が手に入る一部の武器以外は気軽に使用することが難しい為、様々な武器があるにも関わらず、その魅力を十分にプレイヤーが感じることが出来ないように思いました。

ザッパーが万能過ぎる

本作には物資を集める事で作成出来るようになるザッパーという武器があるのですが、これは当たった相手を一定時間痺れさせて行動不能にする、所謂スタン攻撃が行える武器で、こちらを追いかけたり、逆にこちらから逃げ回ったりする敵の動きを止めたり、宇宙船内に設置されているタレットなどを一定時間無力化して、ハッキングや破壊を行う隙を作れる非常に便利な武器なのですが、その性能の高さ故に、宇宙船の探索時にはこの武器を持っていかないデメリットが大きすぎる為、実質必需品のようになっていて、他の武器の存在感が薄くなっているように感じました。

一応精度が低いという欠点はありますし、これだけで敵を倒すことはまず無理ですが、それでも敵を一定時間無力化出来る性能は凄まじく、他の武器に比べてやはり頭一つ抜けた性能になっているように思います。

バイオショックにも敵をスタンさせる攻撃はありましたが、それ以外にも多くの武器や能力を一度に大量に持ち運ぶ事が出来たので、強い武器があったとしても、プレイヤーは自分の好みや状況に合わせて様々な武器を使う事ができたのですが、本作では武器が一度に3つしか持っていけない仕様である事もあって、わざわざザッパーよりも汎用性に欠ける武器を持っていくメリットが薄く、この問題が余計に目立っている印象を受けました。

良いと思った部分

スリルのある探索

普通のFPSのように武器の弾薬が豊富に手に入るようなゲームでは無く、弾切れになることも十分考えられる為、限られた資源を活かして上手く敵を倒したり、時には振り払ったりしつつ、酸素切れが迫る中で探索を行い、生きて脱出する過程は、本作がお世辞にもリアルとは言えないコミック風のグラフィックであるにも関わらず、臨場感と緊張感を十分に感じさせてくれる作りになっています。

敵から大ダメージを受けてしまったり、無限湧きしてくる敵を倒すのに夢中で武器が弾切れになってしまった場合でも、船の中の医療施設で傷を治療したり、ロックできるドアを使って敵の追跡を振り切るなど、宇宙船という環境を活かしてギリギリで生き延びるスリルは他のサバイバル要素があるゲームとは少し異なった新しい面白さを感じる事が出来ました。

頭を使わせる戦略性

本作は大きく分けて船の移動フェーズと宇宙船の探索フェーズの2つで構成されており、移動フェーズでは周囲の状況を見ながら、船に積まれている燃料や食料の状況、敵である宇宙海賊の位置などを確認して、探索するべき宇宙船の選別などを行い、探索フェーズでは宇宙船内のマップを確認して、必要な物資や現在の装備の状況によって、探索ルートを考えるという、今後の戦略を考えながらゲームを進めて行く事がプレイヤーに要求されます。

主人公たちが移動するサルガッソ星雲には幾つかの階層があり、マップの下に行けば行くほど敵が強力になって探索が難しくなりますが、そんな場合は一旦深度の浅い上の階層の宇宙船を探索して装備を整え、改めて深い深度の宇宙船に挑戦する、といった戦略を取る事も出来ます。

他にも宇宙海賊を撃破する事が出来る魚雷を難易度の低い階層で大量に入手し、宇宙海賊を積極的に狩って食料と燃料を補給していく戦略や、最速で必要なアイテムを取りに行く為に、必要最低限の装備や物資だけを取得していくスピード重視の戦略など、プレイヤーのやりたい事を実現出来る自由度を提供してくれており、本作の奥深さを体感する事ができました。

探索時にはマップを開いて、警備室に行って宇宙船内に配置されているタレットなどのセキュリティを無効化する事を最優先にしたり、船の燃料や物資を効率的に集めたい場合はFTL室に行って速攻で戻ってくるルートや、宇宙船内の全ての物資を集められる最短ルートを模索したりと、常に計画性のある行動が求められ、全部屋を虱潰しに巡る事が前提の探索ゲームとは異なる楽しみ方をする事が可能です。

また、敵との戦闘時に使う武器には何を持っていくのかという点でも、乗り込む宇宙船にはどの敵がいるのか、今後に備えてどの装備を温存するのか、といった点を考える必要があり、実際の戦闘時にはしっかりと個々の敵に対してそれぞれの装備の強みを活かし、出来るだけ少ない被害で素早く切り抜けていく必要がある為、戦略性一辺倒ではなく、アクションゲームとしての側面でも十分なクオリティの作品となっております。

徐々に強くなっていく達成感

宇宙船から素材を集め、作業台で様々なアイテムを作っていく事で、体力の最大値を増やしたり、銃弾の入手手段が増えたり、武器の強化や作成が出来たりと、プレイヤーを強化していく事が可能なので、強い敵に対抗出来るようになるなど、キャラクターの成長を楽しむ事が可能です。

それでゲームがヌルゲーになってしまうかと言うとそうではなく、階層が深くなっていくに連れてどんどん敵も強くなっていきますので、難易度の設定にもよりますが、敵が弱くなりすぎてつまらないという事はほぼ無いと思われます。

まとめ

アクション ☆☆☆☆

シミュレーションゲームの様な戦略要素と、FPSでの探索と戦闘が上手く融合されており、そのどちらの要素も十分楽しめるレベルにまで作り込まれている事には、流石バイオショックの開発に関わっていた方が作ったゲームだなと思いました。

バイオショックも従来のFPSらしさの他に、ハッキングや能力を使った成長要素などが組み込まれており、その親和性の高さには当時は驚かされましたが、現代となってはこの作品には当時のバイオショック程の衝撃は無い物の、戦闘面の仕様のクオリティの高さと、その見た目から気楽にトライ&エラーを繰り返すことが出来るゲームとして、非常に良く出来ていると感じました。

ストーリー ☆☆☆

物語はコミックの様にコマと吹き出しによるキャラクターのセリフで説明される為、マンガ文化に馴染みのある日本人には親和性の高い演出方法かと思われます。

キャラクターのセリフが過度に事務的な喋り方になっている事と、作品内の固有名詞が頻発する事で、良く意味がわからない箇所もありますが、大まかなストーリーは十分追うことが出来ますし、所々で出てくる囚人のボイドバスターズ達に対するギャグを含めた非人道的な扱いは、ブラックジョーク的なユーモアがあり、プレイヤーに上手くストーリーを意識させる事が出来ていると思います。

ただ、ストーリー全体の評価としては強引な展開が多かったり、世界観やキャラクター達の背景の説明も殆ど無く、ラストシーンは雑なバットエンドであったりと、物語としてみれば余り褒められた物ではないと感じます。

根本的なゲーム性が異なるバイオショック並のストーリーの完成度を求めるわけではありませんが、もう少し丁寧な描写を行うか、或いは逆に描写が極々僅かな必要最低限の物にした方が良かったのではないかなと思いました。

音楽 ☆☆☆

戦闘時のBGMには良い物がある感じますが、SEに関してはやや過剰気味に感じる部分が多く、特に放射能ダメージの際のSEは、画面的には大した変化がないのに大きめの音が出る時もあるので、何事かと驚く時が多々ありました。

逆に酸素切れが近い事を知らせるアナウンスはやや小さめの音量になっており、全体的な音のバランスをもう少し調整して欲しかったです。

品質 ☆☆☆☆

ジャンプの低さによって地面の障害物に引っかかる点以外では大きなバグも見当たらず、ゲームをプレイする際に何かユーザー側で解決しなければならないような致命的な問題もありません。

コミック風の独特なグラフィックは、近年のリアル風、もしくはアニメ風のグラフィックで作られている作品と比べると一見安っぽく見えてしまう部分もありますが、実際にゲームをプレイしているとその非現実的な空間によって、寧ろ没入感や臨場感が増しており、怪物が徘徊する狭くて薄暗い宇宙船の中や、ギャグを交えたキャラクターの描写などを非常に上手く表現することが出来ているように感じます。

総評点数 70/100

FPSでありながらも探索がメインである事と、シミュレーションによる戦略要素がある事は若干人を選ぶ部分があるかとは思いますが、一度ハマれば時間を忘れて熱中し、気付けば何時間もプレイしてしまうような作品です。

基本的には同じような作業の繰り返しですが、刻々と変わる状況や自分の装備が強化される事によって、同じような状況であっても出来る事に違いが出てくる為、長時間プレイしても飽きない魅力を持っています。

一部の仕様や武器のバランスには少し疑問を感じる部分もありますが、全体的に見れば色々な要素を入れたにも関わらずよくまとまっており、開発スタッフが過去に作ったバイオショックなどの名作で培った経験が活かされた作品だと思います。

ちょっと変わったFPSをプレイしたい方、戦略性のあるゲームをプレイしたい方、或いは一人称視点でのアイテム集めが好きな方にオススメです。

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