世界的な人気を誇るトレーディングカードゲームであるマジック・ザ・ギャザリング(MTG)。
最近はPC上でもプレイできるMTGアリーナが配信された事もあって、ネット上でもその広告などを以前よりも見かけることが増えた(様な気がする)この作品ですが、現在アメリカで行われている「2020年ミネアポリス反人種差別デモ」を受け、人種差別的な表現が含まれているカードの使用を禁止することにした様です。

今までこういった形でMTGが禁止カードを指定した事が無かったという事もあってこのニュースには結構驚いたのと同時に、禁止の告知をしていたページでは各カードが具体的にどんな判断で禁止されたのかが公開されておりませんでしたから、これらのカードがどういった物なのか、そしてどんな理由で禁止されたのかが気になりましたので、今回は人種差別について学ぶ為にも個人的にそれらを調べてみる事にしました。
禁止になったカード一覧
まず今回禁止になったのは以下の7枚のカードとなっております。
- Invoke Prejudice(偏見の扇動)
- Cleanse(浄化)
- Stone-Throwing Devils(石投げ悪魔)
- Pradesh Gypsies(プラデッシュの漂泊民)
- Jihad(聖戦)
- Crusade(十字軍)
- Imprison(投獄)
そして以下が、これらのカードの効果やイラストと、禁止された理由と思われる物(推察)です。
Invoke Prejudice(偏見の扇動)
- エンチャント
- 対戦相手1人が、あなたがコントロールするクリーチャーと共通する色を持たないクリーチャー呪文を唱えるたび、そのプレイヤーが(X)を支払わないかぎり、その呪文を打ち消す。Xはそれの点数で見たマナ・コストである。
青4マナで唱えられるエンチャントで、相手が自分がコントロールしているクリーチャーと異なる色のクリーチャーのマナ・コストを2倍にしてしまうという中々に強力な効果。
イラストは炎かモヤの様な物が漂う中で、黒い縦長のフードと全身を覆うローブをまとった者達がこちらを見つめており、一番手前の者は両手で巨大な斧を持っております。
禁止になった理由は、このイラストの黒い一団の服装のデザインが、アメリカの白人至上団体であるクー・クラックス・クラン(KKK)がデモ活動を行う際に使用していた白装束の物と類似しており、カード名やその効果も相まって人種差別的であると判断された為と考えられている様です。
また、このカードのイラストを手掛けたアーティストであるHarold McNeillは自身のホームページ上でネオナチ的な主張を公言していた事も原因の一つかと思われます。
余談ですが、MTGにはGathererという公式カードのデータベースが存在しており、当時のこのサイトでのInvoke Prejudice(偏見の扇動)の個別番号は1488だったのですが、この数字は14=14 Words(人種差別的スローガン)+88=ハイル・ヒトラーというネオナチなどの白人至上主義者の間で使われている隠語であった為、後にこの「1488」という個別番号自体が削除され、現在ではInvoke Prejudice(偏見の扇動)の個別番号は「485302」に変更されています。
Cleanse(浄化)
- ソーサリー
- すべての黒のクリーチャーを破壊する。
白4マナの黒のみを対象にした全除去呪文。
フレーバーテキストには「雲が切れ、太陽の光がはじけた。凶暴な獣は順番に倒れ、消えていった。」とありますが、イラストには光線ではなく巨大な竜巻の様な物に、黒のクリーチャーと思われる者達が飲み込まれていくシーンが描写されています。
禁止になった理由は、黒のみを全滅させるという効果と、浄化というカード名が「民族浄化」を連想させる為と考えられている様です。
「民族浄化」は特定の民族に対する虐殺などの行為を表す言葉ですので、問題ありと判断されたのでしょう。
Stone-Throwing Devils(石投げ悪魔)
- クリーチャー — デビル(Devil)
- 先制攻撃
- 1/1
黒1マナの先制攻撃持ちクリーチャー。
フレーバーテキストには「時として、最も罪深きものが最初に石を投げる。」と書いてあり、これはイエスが発したとされる「罪のない者だけが石を投げよ」という意味の言葉のオマージュだと思われ、そのフレーバーテキスト通りにイラストでは複数の悪魔が壁の向こう側に向かって石を投げている様子が描写されております。
1マナでゲームが開始されてから真っ先に場に出れる事や、相手よりも先にダメージを与えられる先制攻撃持ちである点も、この「最初に石を投げる」の部分と掛かっているのでしょう。
禁止カードに指定された理由としては、イスラム教には「悪魔への投石」という悪魔に見立てた石柱に石を投げる事で、悪魔の誘惑を退ける儀式が聖地メッカで行われており、このカードのイラストはイスラム教の礼拝堂であるモスクが背景に描かれている事から、フレーバーテキストと相まってこの儀式やイスラム教を揶揄する物であった事が原因と考えられている様です。
Pradesh Gypsies(プラデッシュの漂泊民)
- クリーチャー — 人間(Human) ノーマッド(Nomad)
- (1)(緑),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-2/-0の修整を受ける。
- 1/1
緑3マナのタップ能力持ちクリーチャー。
フレーバーテキストには「実に謎めいた者たちだ。その起源はおろか、慣習すら誰も知らない。–ラノワールのロード・マグナス」と書かれています。
公式の小説にも登場したこのカードですが、禁止された理由はその名前にあると考えられています。
英語名で使われている「Gypsies(ジプシー)」という言葉は、ヨーロッパで生活している移動型民族の人々の事を表す言葉なのですが、一部の人々から物乞いや盗人などの代名詞の様に使われる場合があり、現在では差別用語扱いになっている為、代わりに「Roma(ロマ)」という言葉が使われる様です。
こうした背景があるので、カード名として適切ではないと判断されたのでしょう。
Jihad(聖戦)
- エンチャント
- Jihadが戦場に出るに際し、色1色と対戦相手1人を選ぶ。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしているかぎり、白のクリーチャーは+2/+1の修整を受ける。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしていないとき、Jihadを生け贄に捧げる。
白3マナのクリーチャー強化を行えるエンチャント。
効果の発動条件が少し特殊で、任意の色と対戦相手1人を選ぶ所が、特定の相手を倒すまで戦うというまさに聖戦という行為を表したカードです。
イラストもそれを表現するように数多の兵士が戦場に赴く姿が描かれています。
ですが元々この「Jihad(ジハード)」という言葉は「聖戦」ではなく「苦闘・抗争・努力」という意味の言葉であり、必ずしも軍事的行動や、テロリストが用いる様な相手を滅ぼすまで戦い続けると言った物騒な要素が含まれる言葉とは限らないので、このカードが謝った認識を広めると判断された事が今回禁止に指定された理由と考えられています。
Crusade(十字軍)
- エンチャント
- 白のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
白2マナの場に出ている全ての白クリーチャーの強化を行える非常にシンプルなカード。
2マナという使い勝手の良さに加えて、コスパの良いウィニーを多く持つ白では非常に使い勝手が良かった為、一時期は白のウィニーデッキの必須カードにまでなっていた程のカードです。
フレーバーテキストには「”やっと分かったわ 家はあなたが休むところじゃない。そのために戦うものだ” ーエルズペス・ティレル」と書かれています。
イラストには白のプレインズウォーカーであるエルズペス・ティレルが多くの兵士を率いている場面が描かれています。
禁止になった理由は十字軍というその名前と、神聖な色である白を強化するという効果の為と考えられています。
このカードの名前になっている十字軍とは、中世の時代に西ヨーロッパのカトリック教会の諸国が、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことでして、その際には十字軍による虐殺や略奪などが行われたので、それをそのまま名前にして色が白であるこのカードは、イスラム教諸国の人々に対するそれらの行動を肯定していると捉えることが出来る部分が問題になったのでは無いかと言われています。
また、上記のイラストはエルズペス・ティレルが居るMTG世界のデザインの十字軍が描かれていますが、初期のイラストでは以下の様に胸や盾に十字が付いている実際の十字軍のデザインをほぼそのまま描いた物でしたので、この点も問題になったのではないかと思われます。
Imprison(投獄)
- エンチャント — オーラ(Aura)
- エンチャント(クリーチャー)
プレイヤーが、エンチャントされているクリーチャーの、その起動コストに(T)を含むマナ能力でない能力を起動するたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、その能力を打ち消す。そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
エンチャントされているクリーチャーが攻撃かブロックするたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、そのクリーチャーをタップし、戦闘から取り除く。この戦闘でそれによってのみブロックされていた、それがブロックしていたクリーチャーはブロックされていない状態になる。そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
1マナ支払えばクリーチャーをほぼ無力化出来る状態にするオーラエンチャント。
イラストには裸の男が鉄のマスクを付けられている姿が描かれています。
このカードが禁止に指定されたのはこのイラストが原因で、鉄のマスクはかつて奴隷制時代のアメリカで黒人奴隷の拷問や拘束に使われており、更にこのイラストの男の肌が黒い事もあって、奴隷制や人種差別を想起させるものだった事が理由と思われているようです。
まとめ
MTGはかなり長い歴史を持つ作品である分、今まで様々な調整が行われてきましたが、今回の様な件は恐らく初めてだと思います。
MTGは以下の様な声明をTwitterの公式アカウントにて行っており、今後もまた同じ様に人種差別的な観点から禁止になるカードが出てくるかもしれません。

とりあえず今回の件では私も色んな歴史に付いて調べる事が出来て勉強になりました。
今後もプレイヤーの端くれとしてMTGの動向をできるだけチェックしていきたいと思います。
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